車中泊生活

私小説

「今は車中泊しているの」

彼女の愛車である軽バンの中には至る所に物が溢れていた。ここで生活しているという言葉は伊達ではなく、カップラーメンにガスコンロ。コンビニ弁当や空き缶のゴミなどが散乱しており、衛生的な場所とはいえない。

布団と枕があるので寝所としての機能はあるのだろうが、なにしろ衛生的ではない。 だが最低限の安全が確保でき、雨が凌げるのでホームレスをするよりは恵まれているのだろう。待ち合わせをした大きな公園は平日ということもあり人は疎らだった。

ここで話すことを決めたのは、喫茶店に入ればお金がかかるというシンプルな理由である。しばらく二人で歩き、池を見渡すことが出来る東屋をみかけたので腰をかける。

今度一人で来たときは、梅干しおにぎりと卵焼きのお弁当を持参しよう。日光浴をしている亀達を見ていれば充分に楽しめるなと考えていた。

改めて彼女を見る。車中泊にまで追い込まれたその顔は疲れを隠そうともしなかった。 服は全体的にヨレており髪の毛は脂ぎっているが、唯一手は綺麗だった。

彼女は会話に飢えていたのか、それとも生来お喋りであったのか、いろいろなことを喋り出した。車中泊をする前はマンスリーマンションを借りていたという。

家賃は7万円ほどで、生活費はなんやかんやで月14万程度。短期の仕事に就いたりはしていたが、生活費を賄えるほどではなく貯金通帳の数字はみるみる減っていく。これ以上この生活を維持できないと判断して車中泊生活に切り替えた。

マンスリーマンションと比べ生活クオリティが著しく下がる車中泊生活だが背に腹は代えられない。同じ場所に止まっていると誰かしらに注意されるので、安全そうな駐車場所を探すのも一苦労だという。

主食はカップラーメンがほとんどで、贅沢をするときはセブンイレブンでお弁当を買う。たまにスーパー銭湯に入るときはお風呂に入った後、仮眠室で泥のように眠る。

お腹が減るほど食事は美味しくなるように、お風呂もたまにはいると気持ちよさが倍増するのかもしれないが、私は毎日お風呂に入りたい。

それはともかく、生きているだけでお金がかかる世の中であり車中泊生活も例外ではない。家賃がかからないとはいえ、ガソリン代や食費を始め日々お金は失われていく。

収入はあるのかと聞くと、カードを出した。深くは聞かなかったが借金で暮らしているのだろうと推測した。

池の亀が日光浴をやめて泳ぎだした。気楽そうな生活だがそうでもないのだろうか?現在の真美さんと亀はどちらが生きるのに苦労しているのだろうか。

「こういう生活は辛いですよね、叔母さんに謝って実家に帰るつもりはないんですか?」

彼女はその選択肢を否定した。病気に理解を示さなかった親が許せないのだという。それでもお金の無心をするのは、追い詰められた人間が筋を通すのは難しいということだろうか。

彼女が置かれた状況は把握できたので、私は本題に入る。

「お金のことだけど、兄に無心してみたらどう?」

それを聞いた彼女は明らかに動揺していた。何故だろうか?よく分からない。

「うん……でも……うん……どうしよう」

兄は昔真美さんに憧れていた……と思っている。そんな彼女が頼ってきたら無碍には断れないと考えるのは浅はかだろうか。

それに加え兄妹にはとことんケチだが親戚にはいい顔をしたがる性質を持っている。見栄っ張りだ。

彼女の境遇に少々美化したシナリオを作ればあるいはお金を振り込むかもしれない。 私は兄の金など1円も惜しくないのだ。

あの男が見栄で大事なお金を出し、そのことで私は人助けをした気分になる。これは一石二鳥というものではないだろうか。

当然だが兄の配偶者がこのことを知ればうまくいかないだろう。どこの世界に従姉妹にお金を出すのを喜ぶ妻がいるだろうか。

であるので固定電話ではなく兄の携帯に直接……それに犬猿の仲の私ではなく妹経由でかけたことにしたほうがよい。

真美さんは迷っていた……いや迷ったフリをしていたのかもしれないが、最終的には私の提案を了承した。 こんな車中泊生活に先があるとは思えないし、実際ないのだろう。

実際問題として多少の金が入ったところで、車中泊生活が伸びるだけかもしれない。私はその点について聞いてみた。

「最初に2万円貸してっていってきたけど、2万円で何するつもりだったんですか?」

返ってきた答えは要領が得ないものだった。おそらくだが2万円という数字にたいした意味はなく、貸して貰えそうな額をいっただけなのだろう。 私は続けて質問した。

「兄がお金を振り込んだとしてどう使うつもりですか?」

またしてももごもごいっていたが、ようするにその日を生き抜くこと以外展望はなさそうだ。
とにもかくにも兄に従姉妹を救わせよう作戦を始めることにした。

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