2万円を借りに来た従姉妹の窮状

私小説

従姉妹は母の姉の娘であり、幼い頃はよく遊んだ……というわけでもなく有り体に言うとたいして仲がよくなかったので電話の相手が彼女だと分かったとき、叔父か伯母に不幸があったのだと想像していた。

電話番号どこで?と聞くと年賀状に書いてあったと彼女は答えた。そうかそういえば意味もなく電話番号を書いたなと納得する。ん?彼女には出していないから伯母への年賀状を見たのか。どうでもいいことだが少し引っかかった。

それでも従姉妹なので適当に近況を話してたが、本題を切り出す様子がないので今日はどうしたの?と聞いた。そのとき彼女の用件が身内の不幸ではなく借金の申し込みであったことを知る。

「今凄く困っていてすぐ返すから2万円振り込んでほしいんだけどだめかな」

と言われて振り込み詐欺なのかな?それにしては細やかな金額だなと思いつつ断った。 収入が少ないので人に援助できるお金がないから……そういったのだ。お金がないからごめんね~という言葉が出てきそうになったが寸前で止めた。彼女にお金を貸す義務も義理もないので謝るのはおかしな話だからだ。

「それでも2万円くらいならあるでしょう?本当にだめかな~私凄く困っていて」

なお食い下がる彼女に困っていると思うけど本当にないからと事務的に答えた。2万円くらいならというなら、ほとんど縁が切れていた私に頼るのではなく自分で調達してほしい。

そんなこといわないで、本当に困ってるのとしつこい彼女に叔父さんと叔母さんは頼れないの?と聞いてみた。別に彼女の心配をしたわけではなく、純粋な好奇心からだ。 もちろん私に言ってくるくらいだから、親に借りる段階はとうに通り過ぎたのだろう。 彼女は二人とも年だし……とよくわからない返答をした。

叔父は県庁の公務員だったので、それなりの年金を受給しているはずである。娘に2万円を融通できないほど生活が困窮しているとは思えない。となるとやはり不義理を繰り返して相手にされなくなったのか……すなわち2万円を貸したら確実に返ってこないだろう。それならいくらを食べたほうがはるかにいい。

何故2万円が必要なのかは聞かなかった。聞けば貸す空気が生じる。 好奇心はあったが、2万円を払ってまで聞く価値がある話だとも思えない。2万円を振り込んで音信不通になるのが関の山だろう。

それからも彼女は粘り、私はそのたび断った。

「そんなに冷たい人だとは思わなかった」といわれたので
「私もあなたがそんなにだらしない人だなんて思わなかった」と返答した

そこで電話は切れた。お金に余裕がない人間に礼儀を期待するのは酷だなと妙に冷静になったが、果たして彼女に何があったのだろう。

2万円は私のような低所得者にとって大変だが、それでも2万円が足りなくて困るというのはよほどのことだ。 返済に追われているのか、それとも日々の生活費にあてるのか。

彼女は結婚して子供が二人いたなとこのとき思い出した。夫や子供はどうなったのだろうか?そして叔父と伯母は?年賀状は返ってきたはずだ。

しまっておいた年賀状を探すと、電話番号が書いてあった。私は久しぶりに話すことになる叔父と伯母への挨拶を考えながら 呼び出し音を聞いていた。

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